木林文庫の蔵書

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150歳の夫婦が作る木の図書館『木林文庫』

木林文庫の蔵書

出版活動を始めたのが約二十年前になります。しばらくは「木林文庫」という活動をしていたわけではありませんでしたが、何冊目かに長田弘さんの詩と、樹だけを描いている日高理恵子さんの絵を合わせた『空と樹と』という本を作りました。これが、木に関わる本を作っていく最初のきっかけとなりました。

「木」を分解して始まった展示と文庫の誕生

樹と言葉/長田弘・日高理恵子

その後、牧野富太郎植物園で展示企画をすることになり、樹にまつわる言葉を集めた『樹と言葉』という本を制作しました。この時、「木」という漢字を分解すると「八」と「十」になることから、八十冊の木の本を集めて展示したのが始まりです。

この展示を機に、妻と一緒に木の本を集め始め、約十年前から自宅の一角を「木林文庫」として公開するようになりました。当初は八十冊ほどだった蔵書は、現在では木に関わるものだけで約千八百冊にまで増えています。この狭いマンションの一室の書棚で、皆さんに見ていただくには、ちょうど良いボリュームだと感じています。

学芸大学での百年の暮らしと庭の記憶

学芸大学・碑文谷公園自宅前

木林文庫がある目黒区の学芸大学周辺は、私が生まれ育った場所です。祖父の代から数えると、この土地にはもう百年ほど住んでいることになります。かつてのこの辺りは一区画がとても広く、庭に大きな柿の木が何本もあるような木造の家が多い、のどかな環境でした。

農林省に勤めていた祖父の庭には、関東では珍しいポポーという南国の果実や、梨の木などが植わっており、私は幼い頃から木に囲まれて育ちました。当時は木に詳しかったわけではありませんが、そうした育った環境の記憶が、現在の活動の根底にあるのかもしれません。

世界を旅して集めたドングリとリンゴの本

木林文庫 林檎コーナー

蔵書の中で最も数が多いのは、リンゴに関する本です。世界中の絵本などを収集しています。次に多いのがドングリの本です。ロシアやドイツなど、海外へ行った際にもドングリを拾うことがありますが、国ごとに形が違っていて面白い発見があります。

また、ベランダでも育てることができる柑橘類の本も、これからもっと充実させていきたいと考えています。棚には、猫にまつわる本を集めたコーナーや、酒のラベルに木の名前がついたボトルをブックエンドとして活用するなど、本以外の小物も楽しみながら配置しています。

内向の世代の文学とロシア語の棚

鮎川哲也 小川国夫

木の本以外にも、私たちが大切にしている書棚があります。長年お仕事をご一緒した河合隼雄さんの著作をはじめ、澁澤龍彦、鮎川信夫、小川国夫、古井由吉といった「内向の世代」を中心とした作家たちの本です。また、妻の専門であるロシア語関係の書籍や、フランス語の本も並んでいます。

「ちょうど良い狭さ」が育む会話の場

珈琲の時間

ありがたいことに、『暮しの手帖』に掲載されたことをきっかけに、多くの方がここを訪れてくれるようになりました。本好きの女性を中心に、お子さん連れの方や海外からいらっしゃる方もいます。

ある建築家の方から、天井まで届く書棚を備えた新しい設計案を提案されたことがありましたが、私は今の「この狭さの中でやりくりし、空間が開けている見せ方」が、木林文庫のテイストに合っていると感じ、これからもこの形で行こうと決めました。

本を見ていただいた後に、コーヒーを淹れて皆さんとお話しする時間は、私たちにとっても非常に楽しみな時間です。これからも夫婦でこのささやかな文庫を続けていきたいと思っています。


今回触れた主な本・作家・人物

  • 『空と樹と』(詩:長田弘、絵:日高理恵子)
  • 『樹と言葉』(エクリ編)
  • 牧野富太郎(植物学者)
  • 河合隼雄(心理学者)
  • 内向の世代の作家たち(澁澤龍彦、古井由吉、小川国夫、鮎川信夫など)