5冊
チェーホフは一貫しています。トルストイのようにスケールの大きいモラルや宇宙ではない。出自が全然違いますからね、トルストイは貴族ですから。ドストエフスキーのような心理的な葛藤や哲学とも全く逆で、日常の俗悪な人間が出てきたり、悲しい可哀想な人が出てきたり、小さな幸せに喜ぶ人が出てきたりする。作風は作家として全然違います。
チェーホフは「私は文学者にならなかったら、園芸家になったような気がします」といつも言っていました。「私の夢は薔薇を植えて、誰にも会わないで、小さな作品を書くことです」と。
『桜の園』にはサクランボをいっぱい植える大地主が出てきます。久しぶりに帰ってきて桜が咲いて、真っ白な花が咲き、赤い実が生る。でもその前の真っ白い花は、実がなる前に白いまま凍りついてしまう。幻影のような場面が出てくるんです。結局サクランボって何なんだろう、大収穫って何なんだろう、という反対の主張がだんだん垣間見えてくる。最後は大収穫して豊かになり、それをみんなに配って、それって何なんだろう、というトーンが見えてくる。
写真家の上田義彦さんが、同名の映画『椿の庭』を撮っていて、その気に入った場面をスチール写真にした写真集です。葉山の、海の見える古い木造家屋に住む女性の話で、まもなくその家を手放すという直前の物語。映画は観ていないのですが、この写真集を見て、観たら素晴らしかっただろうなと思いました。
『庭仕事の愉しみ』もあります。晩年のものですね。