短編でよく読まれるものに『田舎医者』があります。村に一軒しかない医者が呼び出しを受けるけれど、馬車が壊れて馬もいなくなっている。どうしようもないので小屋のドアを開けると、その瞬間もう患者の家の前に来ていた。これも夢の構造です。
「たちまち馬車は急流に投げ込まれた材木のように引きさらわれていく。まだかろうじて耳に届いたのは、我が家の玄関のドアが馬蹄の肉弾攻撃のおかげでバリバリと割れて飛び散る音だったが、その後は目も耳もすべての感官に一様に迫ってくる轟々たる疾走の威力に圧倒されてしまった。しかもそれはほんのつかの間だった。というのも、我が家の門のすぐ向かいに患者の家の門が開きでもしたように、もうそこに着いていたのだ」。夢の場面転換そのものです。
最後の一行が「もう取り返しがつかないのだ」。夢はどんな悪夢でも、覚めてみれば「ああ、夢でよかった」で終わる。カフカの場合は悪夢が終わらない。覚めたと思ったらまた夢の中に目覚めているという構造で、いつまでも覚めずに苦しんで苦しんで最後まで。
『頭山』という落語を元にしたアニメーションを作った山村浩二さんが、この『田舎医者』もアニメ化しているそうです。これだけの短編で、あっという間に場面展開してしまうのを、アニメだときっと上手にできるんだろうなと思って。ぜひ見てみたい作品です。
木林文庫チャンネル「カフカと夢」
