5冊
以前、気に入っている本のタイトルとして「イアラ」を挙げました。奈良時代、大仏の鋳造で人柱にされた女性が、銅を流されて亡くなる寸前に「イアラ」と聞こえる叫び声をあげる。それを耳にした恋人の男が、あれは何の意味だったのかと探し続けるうちに、永遠の生命を持ってしまう話です。
古井由吉の比較的初期の作品です。冒頭の一行——「その日のうちに姉はこの世の人ではなかった」。姉と弟の、近親相姦に近いような心の動きを描いた小説ですが、この一行が読んだときからずっと気になって、いつまでも残りました。
高齢の老人と一緒に住んでいる女の子の話で、老人が弱っていき、最期に遺言のように残す言葉があります。——にんげんはこれからうまれてしぬことをくりかえしてなにになるのでせうか。ひとはむらさきをさがしているのでせうが、いつでもそのかはりをみつけ、まんぞくしてしんでいきます。だからどんなにいっしょうけんめいになっても、どこかにさみしさがのこるのかもしれません。
単語では、なぜか「断崖」という言葉が好きです。エルンスト・ユンガーはドイツの作家で、ドイツ軍がパリを占領していたときの司令官だった人ですが、特に裁判にかけられずに済みました。その彼の『大理石の断崖の上で』は不思議な小説で、このタイトルを知ったとき、すぐに求めた一冊です。
藤原定家の『明月記』そのものをきっちり読んだわけではなく、堀田善衞が明月記について書いたこの本で知りました。その第一行が、漢文のような書き出しです。——世上乱逆追討耳ニ満ツト雖モ之ヲ注セズ、紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ。