木林文庫の一角に二本の悲しい木が立っている。一本は柳、そしてもう一本は栃の木である。
コミック作家、萩尾望都の作品集『山へ行く』所収の一篇に「柳の木」がある。
一頁二点ずつの絵が19頁、38枚で描かれた物語で、いわば、一幕ものの舞台である。あるいは、固定カメラで切り分けられたフルとバストショット、アップによって静かに謳われる映像詩というべきか。
後半の5頁分までの絵はすべて川べりに生える一本の柳の木の下に佇む若い女性である。彼女はそこで堤の上を行くただ一人を見ている。晴れやかに、ときに不安げな眼差しで。
「心を残す」という言葉が浮かぶ。人の悲しみはあるとき、あるところ、ある人に心を残すことに発しているのだろう。「柳の木」を読むたびに、この言葉を思い、いつも初めてのように悲しみが流れる。


館長のコラム「悲しい木」より
木林文庫にあるコミックの中から。まず萩尾望都さんの『山へ行く』に入っている「柳の木」という短編です。これは木林文庫の本の中でもオールタイムベストスリーに入ると思っています。すごく良い話で、いらっしゃる方に時々お薦めすると、とても悲しい話なので涙ぐむ方もいます。
「柳の木」のことを木林文庫の冊子に書いたことがあります。——後半の五ページ分までの絵は、すべて川べりに生える一本の柳の木の下に佇む若い女性である。彼女はそこで、堤の上を行くただ一人を見ている。晴れやかに、時に不安げな眼差しで。
——心を残す、という言葉が浮かぶ。人の悲しみは、ある時ある所ある一人に心を残すことに発しているのだろう。「柳の木」を読むたびにこの言葉を思い、いつも初めてのように悲しみが流れる。——何度読んでも胸が熱くなって、目頭に何かが浮かんできてしまう、不思議な話です。
木林文庫チャンネル「樹と人を描いた名作漫画」
