岩田宏詩集

岩田宏 現代詩文庫

『岩田宏詩集』現代詩文庫

『さむけ』の訳者は小笠原豊樹さんです。ロシア語でマヤコフスキーを訳し、英語もフランス語もできる。そして詩人でもあって、岩田宏という名義で詩集を出しています。ロス・マクドナルドは「ミステリー界きっての名文家であり、時としてはほとんど詩の領域に接近するほどの高度な散文家であります」と、あとがきに書いている。詩人である人の手になるから、あの訳ができるのだと思います。

岩田宏の詩集にショパンの長編詩があります。ワルシャワの革命後に亡命した時期を書いたもので——何の因果でこんなところに僕は一人ぼっちでいるのだろう。これほど恐ろしい時勢でも、一緒にいる君たちは慰めあえる。君のフルートは涙を流せるか。僕のピアノは思う存分泣いている。——そこへ優しい目をしたフランス人が遠慮がちに肩を叩いて、芸術家はいわば世界人ですから、祖国は全世界であるべきです、と言う。

——本当にゆりかごの中から死ぬ時まで、私は芸術家であり、しかもありふれたただの人間です。ご覧なさい、フランスもイギリスも私の祖国に力を貸そうとはしない。ワルシャワの革命家たちは国の中でも国の外でも死ぬでしょう、孤独に苛まされて。私はもう信じません、貴族たちの政治を。私は死者を弔います、不信と絶望を込めて。——ひ弱な印象のあるショパンが、怒りを込めて振り返っている。力強い詩です。

木林文庫チャンネル「ミステリーとSFの三選」 11:47 / 4:32 / 6:09