長田弘さんの詩とエッセイは、エクリの『空と樹と』にも使わせていただきました。この本では、アメリカを車で旅する話の中に、アパラチアの大きな木の、怖いくらいのところを走る場面があります。気に入りの文章なので読んでみます。
——はるか昔、ローマの賢者の残した自省の言葉を思い出す。普遍的な時を記憶せよ、そのごく短いほんの一瞬間が君に割り当てられているのだから、とマルクス・アウレリウスは言った。そしてあたかも一万年も生きるかのように行動するな、と言った。君に残された時は短い。山奥にいるように生きよ、とも言った。——私たちの歳になると、なかなか染み入る言葉です。残りの時間はどう考えても短いのに、それを忘れてしまうことがしょっちゅうある。
——どこまで走っても森。まっすぐ天を指している木々の列。森が切れると雑木林が広がる。枝いっぱいの木の芽が空気の色を暖かくしている。さっと鳥の影が横切る。ふたたび森。その時は気づかなかった。その時私は、人生で手にし得るおそらくは一番綺麗な時間の中を走っていた。——などと気づいたのはずっと後になってから。いつものように、後まで残る文章です。
