中二階のある家

Дом с мезонином

チェーホフ

チェーホフ『中二階のある家(ある画家の話)』。ロシア語の原文と邦訳を並べて

ロシア語が好きになって、大学は自ずとロシア語学科へ行きました。文学科ではないので、社説や天声人語を日本語からロシア語に訳すようなことをたくさんさせられましたが、チェーホフは短編が多いので、短編を訳す授業もありました。その中に『中二階のある家』があります。

ある画家が友人の別荘に夏のあいだ逗留する。隣に姉妹がいて、姉は先生で教育熱心、教育論を滔々と議論するので彼は辟易している。妹は無垢な可愛い女の子で、彼は恋心を抱く。ところが「こんな無頼漢に妹が近づいてはならん」と、姉が母と一緒にどこかへ引っ越させてしまう。彼は一瞬悲しむけれど、そういうこともあるという感じで、またのらりくらりと友達の家に住み続ける。なんてことのない話ですが、ロシアの美しい風景の中の話です。

ドストエフスキーには結論があるけれど、チェーホフには結論がない、とよく言われます。滔々と論を述べるものではない。普通の日常の人間はこんなだろうな、という温かい眼と冷徹な眼で人を見る。

ロシア語を日本語にする時、ロシアの風景の中の心の機微を移すのはとても難しい。その時に翻訳って面白いなと思いました。ロシア語で二十ページですから短いとはいえ、学生の私たちにとっては長くて、辞書を引き引き訳しました。

木林文庫チャンネル「副館長の愛読長編(前編)」

この本と結びついている本

桜の園チェーホフ

副館長が大学のロシア語学科で訳した短編。同じチェーホフの『桜の園』は、薔薇の回で館長が語っている