2013年にエクリから出版した本です。ウェールズ・ケルトの伝説の吟遊詩人タリエシンの詩で、六世紀頃、イギリスではアーサー王が活躍したと言われる年代のものです。アーサー王が亡くなったのが532年とか542年と言われていて、タリエシンは円卓の騎士には名前がありませんが、アーサー王に付き従ったと言われています。当時のケルトは文字を持たなかったとされるので、口承叙事詩です。
この詩を知ったのは、木林文庫にある『ケルトの木の知恵』という本の中に The Battle of the Trees という言葉が出てきたからです。その言葉に出会った時、妻と一緒に大喜びして「これエクリの本だね」と言いました。そこから原典を探し始めたんです。
元々がウェールズ語で、きちんと翻訳できる方は二人しかいらっしゃらないそうです。その一人が中野節子先生で、『マビノギオン』を訳されていると気づいて直接お尋ねしました。ところが、これほどの幻想物語を訳している先生が「この詩は私の手には負えない、とても難しい。英語から翻訳されることをお勧めします」とおっしゃった。
それで、同じく『マビノギオン』を英訳から訳されている井辻朱美さんにお願いしました。翻訳もされますが、ご自分で詩を書いていらっしゃって、その詩がまさに中世の朗々たる物語を訳すのにふさわしい。初めてお会いしてお話しすると、二つ返事で「私やります」と。翻訳者は割とすぐ決まりました。
『The White Goddess』の中に The Battle of the Trees が全部で96行の詩として書かれています。エクリで出した本も、これを元に96行を訳してもらいました。少し古めかしい歌のような表現ですが、見事な翻訳だと思います。
——深緑色したヒイラギは 決然として一歩も引かず/多くの穂先で武装して ひとびとの手を痛めつける/すばやきオークは足踏みならし 天と地をばとどろかす/「扉を守る剛の者」と その名はあまねく知られたり/エニシダこそは歴戦の勇士/ツタは盛りの真緑で この不可思議な時の間を 見届ける役をつとめつつ——。ヒイラギやオーク、エニシダ。ヨーロッパの木なので我々があまり見ない木もありますが、ヒイラギが人々の手を痛めつけるなんて、いかにもそうであろうという感じですね。
木林文庫チャンネル「ケルトの木の戦い」
エクリでは、6世紀頃のウェールズ・ケルトの吟遊詩人、タリエシンの詩画集『木の戦い』(井辻朱美・訳/華雪・書)を二月に上梓した。
“The Battle of the Trees”
ある本の中で、このタイトルに目がとまったときすぐに、この詩を出版したいと思ったのだ。ブナ、ハンノキ、ヒイラギ、モミ、トネリコ、多くの木々が動き出し合戦に馳せ参じるという詩で、登場する木々は軍記物語の勇将たちのように雄々しい。
―― 深緑色したヒイラギは決然として一歩もひかず多くの穂先で武装してひとびとの手を痛めつける
『指輪物語』のエント族たちも隊伍を組んで進軍し、オークの軍勢と果敢に渡り合うが、トールキンはタリエシンの謳った”The Battle of the Trees”に想を得たのではないだろうか。
館長のコラム「バーナムの森の樹が」より
