石牟礼道子さんというと水俣が印象的で、『苦海浄土』の恐ろしい記述が頭に浮かびます。これは彼女がまだ四、五歳の幼女だった頃のことを書いたもので、記憶力がよく、耳もよかったのでしょう、おばさんたちの話を聞いて覚えていたことを書き起こしている。それがすごく美しい。
——海の方へ陽が落ち始めると、丘のてっぺんの木々は根元の方から逆光を受け、自分の影を収めていくように一本一本際立ちながら立っていた。木々の姿はそうやって高い夕空を形取っている。椿もシュロも琵琶の木々も、そのように重なる丘の上に立ち、夏の茜空はくっきりと大きな影絵のように暮れていくのだった。——素晴らしく映像的で、綺麗な文章です。
この場所が、のちに汚染されて『苦海浄土』になる。私たちは『苦海浄土』を先に読んでいたので、改めてこれを読むと、こんなに叙情的な、きらめくような文章を書く人だったのかと思います。
