『椿と花水木』は中浜・ジョン万次郎の伝記小説である。万次郎の生涯を貫く日米の友情と愛の象徴として椿と花水木(ドッグウッド)の二本の花木が上げられており、作者は万次郎に「男の子ならドッグウッド。女の子ならカミーリア(椿)じゃ」と云わせて、こう書いている。「万次郎はアメリカと日本でもっともなつかしい樹の名をひとつずつ告げた」
何人もの作家たちが万次郎の小説・評伝を書き継ぐのも当然で、彼の生き方、人となりに魅せられない人はいないだろう。際立つ個の強靭さと、彼が築く人との関係の豊かさには「人間」を全面的に肯定させる促しがある。
天は自ら援くる者を援くというが、艱難の針孔を揺るぎない意志で通ろうとする万次郎を援けたのは天の配剤というより、後代の者たちへの伝言を天が万次郎に預けたように思える。
館長のコラム「時代小説の木は何処」より
椿の本は時代小説が多いのですが、その中で時代小説としてぎりぎりの一冊です。ジョン万次郎の伝記小説。土佐の漁師だった彼は遭難して無人島に流れ着き、アメリカの船に助けられます。そこからが語学の天才で、船長に気に入られてアメリカの学校に入り、ゼロから始めたのに首席で卒業する。
なぜこのタイトルかというと、彼がアメリカで結婚したとき、男の子が生まれたらドッグウッド——ハナミズキ、女の子だったらカメーリア——椿にしよう、と決めていたからです。結局子どもは生まれませんでしたが。帰国後は薩摩の島津斉彬に重用され、和親条約のときには通訳を務めます。話としてもとても面白く読みました。
木林文庫チャンネル「ツバキの本」
