椿宿の辺りに

梨木香歩

梨木香歩『椿宿の辺りに』

梨木香歩さんは不思議なタイトルを付ける方です。カバーの絵も古代の海幸彦・山幸彦を使っていて、登場人物の名前もそう。いかにも古事記っぽいタイトルなのですが、場所は大和のあたりかと思ったらそうでもなく、シュロの木が生えているような土地を訪ねていく。

印象に残っているのは、主人公が椿宿に来たときに祖母の声が聞こえてくる場面です。臨終ではないかと心配すると、「今のはお婆様ですね」「そのようです」「もう覚悟したんでしょう」「いえ今のは生き霊です。まだご存命です。ただもうだいぶ魂が自由に行き来されていますね」——亡くなってはいないけれど浮遊している、という話が、普通の会話の中にすっと出てくる。取って付けたようでなく入ってくる。そこが巧みなところだと思います。『家守綺譚』にもそういう感じがありますね。

木林文庫チャンネル「ツバキの本」 22:26 / 24:06