森はいつでも誘惑と排除の双面神だが、「森へなんか行きたくない」と思わせる恐怖小説の一つに『入らずの森』(宇佐美まこと)がある。
物語の舞台は愛媛と高知の県境。平家の落人伝説が生きる村と云うと、魑魅魍魎の気配ありありで、ホラーのお約束にはまりすぎの感だけれども、摩訶不思議な生物の粘菌を絡めていることで恐ろしさが倍化している。
この粘菌研究に心血を注いだ南方熊楠の話もうまく織り込まれている。
粘菌の写真を目にすると、極彩色のリトルワールドで、その鮮やかな色合いには大いに魅せられる。しかし植物とはいえ、こいつは時にゾワゾワと動き回るのである。そしてこの山里に漂う敗残の物の怪は、恨みを抱いている者が現れるとにわかに活性化し粘菌と一体化する。怨念を嗅ぎつけ取りつくのだ。この憑依はあり得ると納得させられてしまうから怖い。
館長のコラム「森へなんか行かない」より