柳田国男の『遠野物語拾遺』にある栃の樹の言い伝えは文庫本の一頁に満たないけれど、この話もまた胸ふさがれる「恋歌」だ。
―― 曲栃の家には美しい一人の娘があった。いつも夕方になると家の後の大栃の樹の下に行き、幹にもたれて居り居りしたものであったが、その木が大槌の人に買われてゆくということを聞いてから、伐らせたくないといって毎日毎夜泣いていた。それがとうとう金沢川へ、伐って流して下すのを見ると、気狂いのようになって泣きながらその木の後についてゆき、いきなり壺桐の淵に飛び込んで沈んでいる木に抱きついて死んでしまった。そうして娘の亡骸はついに浮かび出でなかった。天気のよい日には今でも水の底に、羽の生えたような大木の姿が見えるということである。――
意中のイラストレーターに挿画をお願いし、この小さな「恋歌」を冊子本にしたいと夢見ている。
館長のコラム「悲しい木」より