山の家 クヌルプ

エクリ 2017年

この本の舞台になった霧ヶ峰のクヌルプ・ヒュッテに来ています。今は夜の八時過ぎですが、ストーブがないと寒くてしょうがない。

山小屋のオーナーである松浦さんご夫妻のことを書いたのですが、松浦さんは本を出した翌年に亡くなってしまいました。本当に残念だった。もう一度こうしてここに来て、お二人のことや山小屋のことをゆっくり話したいと思っています。

この本を作るきっかけは、クヌルプが出来てから六十年だったことです。入り口のところに1957年に開いたと書いてあるので、本が作られた時がちょうど六十年目でした。上諏訪でみんなでお祝いをして、インタビューさせていただいた方々もかなり大勢集まってくださった。フランスのジャック・デリダを専門にされている鵜飼哲さんも、当時は哲学の教授をされていたと思いますが、参加してくださいました。当時の居候だった人たちも随分集まってくださって。

本当にプライベートな本なのですが、ここのファンの方はもちろん、そうでない方も手にとってくださって売り切れました。感謝して作った本だから思い入れが深い。感謝の思いを僕らができる形にすると本だ、というつもりもありました。

前書きの最初はこうです。「山仕事は無駄事ばかりだよ」と松浦さんが話したことがある。膨大な無駄事の積み上げに対する畏敬と、私たちにもたらされた豊かな日々への感謝を込めて、私たちの仕事を始めようと思う。六十年に三十年をより寄り添わせながら——。六十年経った時に、僕らが通い始めて三十年。それを合わせた一冊にしようという思いでした。

居候というのが面白くて、みんなそれぞれできることをやるんです。当時は水も運んできたし、トイレも浄化槽がないから汲み取りで、女の人も「私、肥桶担ぎました」とインタビューで言っていました。テーブルを作ったり彫刻したり、家自体が手作りです。一時は居候が何十人もいて、お客さんより多かったと言っていました。

このテーブル類は六十年ものです。しっかり作ったものはすごい。この座椅子も、もうまともに作れる人がいない。六十年ということは、いろんな地震に耐え抜いてきたということですね。

木林文庫チャンネル「山で暮らす生き方」