『林檎の木の下で』(アリス・マンロー著)は「木」との関わりからではなく、小池昌代さんの書評に呼ばれて読んだ一冊。「狐の書評」で知られた山村修さんと小池さんの書評が私は好きだ。二人の言葉はいつも静かな誘惑で、読みたくなる本がこんなにもあるという高揚感に導いてくれる。引用は的確で美しい。
『林檎の木の下で』はスコットランドからカナダに移住してきた著者の一族を描いたそれぞれ独立した短編が、血のバトンによって一つながりとなり長編を構成している。マンローの小説は「日々」ということに思いを向かわせる。揺らぎも叫びも輝きもない一日一日。血はこうした日々の中を音もなく流れ著者に受け継がれているように思える。時を遡行するマンローの視線は柔らかく、彼女の深い眼差しがそのまま文に移されている。
「読書とは一体にそういうものだが、マンローを読むとき、読者は今に至るまでの自分を総動員することになる。させられるのではなく、自然、そうなる」と小池さんは書いている。
館長のコラム「和から洋へ ―翻訳長編小説」より