リラの本は木林文庫に何冊かありますが、その一冊が文字通り『リラの頃、カサブランカへ』。小川国夫の初期も初期で、彼は自分でこの本のことを捨て石だと書いています。習作以前の習作くらいの位置づけらしい。
なぜか帯にカサブランカの文章ではなく、表側は小川国夫が訳したシュペルヴィエルの詩、裏側はロートレアモンが載っている。自分の翻訳を帯に載せるという妙な作りです。
小川国夫は柔らかなタイトルを付けない人です。『試みの岸』『或る聖書』『逸民』『青銅時代』『流域』——みんなかっちりした短いもので、これだけが異質です。捨て石だと冷たい言い方をしているのは、内容的にも分からなくはない。文章もまだ確立されていない。
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宇宙青のライラックに彩られるのは甘美な恋ばかりではない。死んだ土から生まれたリラは残酷な匂いも潜めているのだろう。
『試みの岸』『或る聖書』『逸民』、小川国夫は私が最も好んで読んできた作家だ。『青銅時代』『流域』『王歌』、どれも彫琢の鑿音が聞こえそうな硬質な書名が多い小川国夫にあって、『リラの頃、カサブランカへ』というタイトルはかなり趣が異なっている。この作品は作家自身が「捨石」と述懐しているように習作の印象は否めないが、会話や独白には紛れもなく堅固な小川の筆が宿っていると思う。
この本の帯にはジュール・シュペルベールのロートレアモンへのオマージュ詩が載せられている。「老いたる海よ」と謳ったロートレアモンが死して波となっている詩句で小川国夫自身の翻訳である。シュペルベールは好きだし、訳詩も見事なので文句はないけれど、本文の抜粋ではなく、筆者の翻訳が帯というのは風変わりだ。この帯の地色が薄青のライラックカラー、そして函に使われているのは谷川晃一の絵である。表紙は煉瓦色の布クロス、背文字は銀箔、平は空押し。凝ってはいても厚塗りではなく、端正な存在感を滲ませる造本である。
館長のコラム「宇宙の青で — ライラック」より
