うちがアルセーニイ・タルコフスキー詩集『白い、白い日』を出したすぐ後に朗読会をやりました。ロシア語で読んでもらって、日本語も達者なロシアルーツの方で、歌手だったから声が素晴らしく、リズム感もあって、読む力が抜群でした。三十分ほどずっとロシア語でタルコフスキーの詩を、いくつもいくつも読んでいただいた。
本が出たのが2011年で、同じ年です。コロナ前で、五十人以上が集まっていたと思います。ほとんどの人がロシア語が分からないのに、誰も飽きなかった。それだけ読む力が素晴らしかった。その時に記録したCDが残っています。
これを出した経緯は、アルセーニイ・タルコフスキーの息子がアンドレイ・タルコフスキーで、その映画『鏡』の中にある「初めての逢瀬」という詩が素晴らしかったからです。父親自身が朗読していて、やはり良い声でした。それでこの詩にたどり着いた。映画からなんですね。
この詩集にはライラックの出てくる詩が四つほどあります。「初めての逢瀬」にもあるし、「ライラックの十字」「ライラックのひと房を」も。——六月のライラックはあまりにも多くて、世界は青く輝くほどだった。アルセーニイが生まれたのが六月で、ロシアでは六月頃にライラックがいっぱい咲くんです。

「初めの頃の逢瀬」——逢瀬の一瞬一瞬を僕らは祝福した/まるで神の顕現のように/世界にただ二人きりで/君は鳥の羽よりも大胆で軽やかだった/階段を、まるでめまいのように一段飛ばしで駆けおり/そして導いてくれたのだ/濡れたライラックの茂みを抜け/自らの領地へと。
——君は眠っていた/宇宙の青で瞼に触れようと/テーブルのライラックが君の方へ身を伸ばした/そして青に触れられた瞼は穏やかで/腕は温もっていた。この「宇宙の青」という表現。ライラックが宇宙の青のような色だという。
木林文庫チャンネル「ライラックの詩」
モスクワへ行った目的は、タルコフスキーの妹さんに『白い、白い日』を出す許可を得るためでした。許可はすぐ、喜んでと言って出してくださった。
アルセーニイ・タルコフスキーのお墓へ行きたかったのね。ペレジェルキノという、昔の文学者たちが集まっていた白樺の村みたいな場所です。武者小路実篤のような、ああいう村があって。
パステルナークのお墓から二十五歩歩いたところにアルセーニイ・タルコフスキーのお墓がある、というのを私はどこかで読んでいて。ちゃんと二十五歩、彼が一生懸命行ってくれたらあったんです。彼がいなかったら、私は迷子になっていたと思う。

木林文庫チャンネル「パリ・モスクワ・ベルリンで「木」の本を探す」
宇宙の青で瞼に触れようとテーブルのライラックが君の方へ身を伸ばした、「鏡」「ストーカー」「ノスタルジア」で引用朗読された詩に心打たれて、エクリは2011年にアルセーニイの詩集『白い、白い日』を前田和泉さんの翻訳で上梓した。
さらに監督の死によって制作されなかったアンドレイの最後のシナリオ「ホフマニアーナ」は2015年に刊行した。
ホフマンの幻想世界への推進力なっているものに望遠鏡と鏡がある。アルセーニイは望遠鏡、そしてもちろんアンドレイは鏡に魅せられていた。蝋燭の炎を押し包んで闇が蟠り、鏡の面に魔がゆらめくホフマンの世界を監督はどんなふうに思い描いていたのだろうか。
館長のコラム「宇宙の青で — ライラック」より

