『燃ゆる樹影』(藤田宜永著)の帯に「恋愛小説の白眉」とある。「うーん、白眉か」と二の足踏んで躓きかけたが、主人公の男が樹木医という設定なので読み進む。本書の冒頭近くで描写される、主人公の治療作業の様子は専門家に取材した手順をなぞっているような印象があるけれど、後半の枝垂桜の手当てでは息遣い手際が生き生きと伝わってきた。
この小説の男にも女にも、そして愛のかたちにも共感できないが、もちろん、それは好みの問題で作品の良し悪しではない。アンナにもウロンスキィにもその不倫愛とやらにも惹かれはしなかったけれど、『アンナ・カレーニナ』は強力な磁場をもった小説だ。初読時に刻まれた一文は今でも胸裏に残っている。
館長のコラム「樹のお医者さん」より