ジョルジュ・サンド セレクション8 小さな愛の物語

ジョルジュ・サンド 藤原書店

ショパンとのマジョルカ島や男装の麗人という呼び名を知る前の高校一年生のとき、初めてサンドの小説「愛の妖精」を読んだ。わが師がプルーストの「花咲く乙女たち」を評した「淡々と溶ける砂糖菓子のような」という印象で、初心な少年はけっこう感激した。

『ジョルジュ・サンド セレクション8』に「話をする樫の木」という物語がある。牧歌的な、それでいて子供の独立心をくすぐる話で、大昔少年だった者にも心地よい。

豚が嫌いなのに豚番をさせられていた孤児のエミは、あるとき豚の群れの怒りをかってしまい、樫の大木の洞を住処とするようになる。人に悪さをする木と言い伝えられていて、近寄る者がいないからだ。

採集と小さな狩猟、そしてときどきの畑泥棒でサバイバルするエミを樫は拒みはしないが、庇護してくれるわけでもない。この樫の木が話をするのは、話したように思えたのは、魂胆を秘めた老婆の甘言にエミがたぶらかされそうになったときただ一度である。「そこには行くな」と。

エミはやがて幸せな結婚をし、「森番のシェフ」に選ばれ、「話をする樫の木」のそばの樹林に家を立て生涯を終える。

「木はもう話さなくなりました。あるいは、話しても、それを分かる耳はもうないのでしょう」とは、その後の樫の木のことである。

館長のコラム「口をきく木をみつけたら」より