フランスの現代小説『火炎樹』(パトリック・グランヴィル著)は「樹」にからむタイトルから手に取った。フランボワイアン(火炎樹)と聞くと、私はゴシック教会の壁面装飾のことを思い浮かべてしまうが、深紅の花を咲かせる方の『火炎樹』は読みはじめてすぐに引きこまれた。
教会の石壁のごとき硬質なものは何一つない、呪術とミサイルが同居する赤道直下のアフリカ某国が舞台となっている。この地を牛耳っているのは、土と樹液を混ぜ合わせ太古の叫びを吹きこんで捏ね上げられたかのような男トコール。野放図で滑稽なこの男には独裁者特有の永続への欲望が皆無だ。熱気と狂気が充満する奔流のようなダンスマカーブル。
子どもじみた夢の追及に駆り立てられて己の王国を喰い破り、クーデタに見舞われるトコール。打ち倒された独裁者は森の中で神話的な葬儀を施され、真昼間の夢幻劇が終わりを告げる。豊饒な野生にすっかり疲れ果て、私は笹の葉音が恋しくなったのだ。
館長のコラム「和から洋へ ―翻訳長編小説」より