ロシアの森

木村浩 小沢書店 1979

ロシア文学者、木村浩の『ロシアの森』は、愛するロシアの風景の中に、きら星のごとき芸術家たちへの崇敬ともいうべき思いが溢れるエッセイ集だ。

トルストイは、みずからの領地「ヤースナヤ・ポリャーナ(明るい森の中の草地)」の森のなかで、母国の自然への畏敬の念を込めて、『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などの大作を書き、農夫として一生を終えた。

「森の道を進んでいくとき、…芽をふいている自分の木の一本一本に、喜びを感ずるのだった」

これは『アンナ・カレーニナ』の中の一節。中部ロシアの大自然を歌い上げたツルゲーネフのふるさと、スパスコエの森の中の散歩道は、映画『戦争と平和』の撮影に使われて、忘れがたい一シーンであった。

「僕に代わって…若い樫の木によろしくと、故郷を焦がれ、遥かなるパリから友人に書き送っている。詩聖プーシキンの、森と湖と川の豊かなミハイロフスコエも、それなくしてはあの美しい詩が生まれなかった、創作の泉たる領地であった。

ロシアへの思慕を奏でたチャイコフスキーと、みずからピアノを弾き、作曲もしたトルストイとの交流、チェーホフとの絆、カンディンスキー、シャガール、スーチンら、秘かなロシアへの望郷の念を描いた亡命画家たちの美的世界についても触れている。

館長のコラム「ロシアの森② 森は創造の泉」より