記憶のつくり方

長田弘

長田弘『記憶のつくり方』

前にパンの話をした時に長田弘さんの話をしましたが、長田さんは珈琲も好きで、珈琲について良い文章があります。『記憶の作り方』というエッセイ集の中に「ルクセンブルクの珈琲茶碗」というのがあって、このタイトルが良いんだよね。

遠い町に、ルクセンブルク製のコーヒー茶碗に熱いコーヒーを淹れてくれる店を知っている——という書き出しです。そのコーヒー茶碗はその国のように静かで清潔だ、と。違った町の一日の始まりには、朝の光と朝のコーヒーがあればいい。理想的な情景が浮かぶんだけれど、そういうカフェに僕らは出会ったことがない。幻の理想のカフェです。

長田さんはマルクス・アウレリウスが好きで、マルクス・アウレリウスと珈琲の話が結びつくのが長田さんらしいところです。「そう考えない自由が私にはあるのだ」というアウレリウスの言葉が好きだと言う。まっすぐな質問を前にして、答えようもなく、ただ黙って熱いコーヒーを飲む——と書いている。

「Café Gallery KLEIN BLUE」の看板。理想の一軒
ギャラリー珈琲店 古瀬戸。神保町の表通りに面している

マルクス・アウレーリウスを読みたいときは濃く淹れたブラック・コーヒーにかぎる、と。古い良い本ほどかしこまってなど読みたくない、ブルージーンズでマルクス・アウレーリウス。コーヒー屋のマルクス・アウレーリウスに私が学んだのは、日々に必要な勇気だ——素敵な言葉だよね、長田さんの。

私も今ブルージーンズを履いていますけど。

サロンド冨山房の地下、喫茶店 Folio の入口
Folio にて。本をたくさん買った日は、疲れたねと言ってここへ来る

町の珈琲屋さんがなかなかないねという話をしましたが、僕らは本を探しに古書店というと神保町へ行くことが多い。早稲田も行くけれど、最近は早稲田の古書店がなくなってしまって、ラーメン屋さんに変わっているところが多いんです。神田も神保町もラーメン屋さんが増えているけれど、それでも珈琲屋さんは残っている。

その中でも僕らが行くのは三軒。一軒は名前が凄く良いんです。クラインブルー。クラインの青という名前をそのまま使ったカフェで、気に入ってよく行きます。

同じく Folio にて
神保町の古書店街

古書店ではないけれど東京堂によく行きます。その前のビルの地下にサロンド冨山房があって、その地下が Folio という喫茶店。ノーマルな珈琲だけれど、ゆっくり本が読める。こんなに空いていて良いんだろうかと思うくらいゆったりしていて、出版社がやっているから本を読みやすい雰囲気の喫茶店です。

あとは小瀬戸(古瀬戸)。これも名前が良いんだけれど、神保町の表通りにあるからいつも凄く混んでいる。あまり静かではないけれど、店の雰囲気は悪くない。だから理想はクラインブルーですね。

神保町の書店で棚を見る
神保町の通り

本をたくさん買ってしまった時は、疲れたねと言って東京堂から Folio へ行く。それが神保町のスタイルです。

僕らが尊敬している美術出版の編集者の方も東京堂が好きで、東京堂で買った後にやはり Folio へ来て珈琲を飲むのよ。僕らも一緒に東京堂で会って Folio で飲むということを、彼女とは何回かしています。僕らよりずっと年上の方で、最近はお会いしていないけれど、どうされているかな。

木林文庫チャンネル「珈琲と本の話」

この本と結びついている本