そのほか

審判

審判Der Process

フランツ・カフカ 新潮社 1925

一番夢の構造に近いものの一つが『審判』です。犯罪を犯していると言われて収監されるのに、自由に勤め上げている。罪を犯しつつ勤めているという妙な状況で、最後には殺されてしまう。判決は出ているのに、判決を告げられた主人公は自由に働いて日々暮らしている。

アメリカ

アメリカAmerika

フランツ・カフカ 新潮社 1927

映画化された作品に『アメリカ』があります。もう一つ『火夫』という釜焚きの話のタイトルもある。なぜ映画化したのか理由がよく分かりません。アメリカに着いて港に入るまでの、船の中だけの話なんです。故郷——チェコでしょうか——で女中さんに子どもを産ませてしまって、両親にアメリカへ追いやられる青年の話で、上陸する前の船での話だけ。どうやって映画化したのか、そのモチベーションも分からない。一度観てみたい不思議な短編です。

ミレナへの手紙

ミレナへの手紙Briefe an Milena

フランツ・カフカ 1952

カフカは日記だけでなく手紙もたくさん書く人でした。後半生の恋人になるミレナに膨大な量の手紙を書いていて、全集の一冊に入るくらいの分量です。その中に「あなたの夢を見ました」という記述が何回も出てきます。

城

フランツ・カフカ

カフカの一番の長編で、未完だとも言われる『城』があります。測量のために城のある町にやってくるのですが、どうしても城に入ることができない。村の人たちの記述で「城に住んでいる人たちはよく眠ってばかりいます、長い間眠っている人たちなんです」というのがあって、考えようによっては、城の中に住んでいる人の夢が村の人たちの生活なんじゃないかと思うくらい、村の生活も奇妙です。彼らが夢から覚めないから城の中に入れないんだ、という構造かなと思ったりします。

日記

日記

フランツ・カフカ 新潮社

日記の中に夢の話もたくさんあります。日付がはっきりしていて、1913年11月24日——革命前ですね——に「眠っているうちに夢を見失う」という記述がある。夢を見失うという表現がカフカらしい。

変身

変身

フランツ・カフカ

カフカの作品は夢の構造で読めるものが多い。『変身』もそこそこの長さがありますが、最後の最後まで夢の中で苦しんで、最後は家族に蔑ろにされた上に殺されてしまう。夢が悪夢のまま終わるという話です。

夢

夢

フランツ・カフカ

『夢』と題した短編があります。書き出しがまさにそれで、「ヨーゼフ・Kは夢を見た」で始まる。天気が良かったので散歩しようと思った、そう思ってほんの二歩歩き出したばかりだというのに、もう墓地に来ていた。

車輪の下Unterm Rad

ヘルマン・ヘッセ 1906

僕らが学生の頃——五十数年前、六十年ぐらい前ですが——ドイツ文学のヘッセは割とポピュラーでした。山小屋クヌルプを開いた松浦さんたちの時代はもっと前、戦前ですけれど。特に『車輪の下』は必読書というか、必ず五本の指に入る作家でした。時代が少し下がった我々でも、ヘッセは必ず読んでいた。代表作というと『車輪の下』、それに『デーミアン』ですね。晩年には『庭仕事の愉しみ』や水彩画もあります。ナチスの時代はスイスに亡命していました。出自はユダヤ人ではないけれど、書いたものはリベラルな部分が多いので、ドイツ国内にはいられなかったし、いたくもなかったのでしょう。ノーベル賞を受けたのは戦後です。

クヌルプ

クヌルプ

ヘルマン・ヘッセ

松浦さんはヘッセが好きで、『クヌルプ』が好きだったから、この山小屋にクヌルプという名前を付けたんです。

ヘッセ詩集

ヘルマン・ヘッセ 新潮社

『草子ブックガイド』の中で、主人公の女の子・草子が本についての力強い言葉を読んでいるところがあります。ヘッセの詩集の一節です。

グランデール

グランデールGrain-d'aile

ポール・エリュアール

パリで見つけて自分で買った絵本が、エリュアールの「グランデール」です。当時それを手書きで翻訳して、お誕生日プレゼントですよ、と言って渡しました。45年前のことです。その本を、30年ぶりくらいにエクリから出版することになりました。

リベルテ(立体絵本)

リベルテ(立体絵本)Liberté

ポール・エリュアール

エリュアールの詩「リベルテ」——「君の名前を書く」と繰り返して、最後にその名前が自由(リベルテ)になる抵抗の詩——を立体絵本にしたものです。妻と一緒にパリを旅行した時に、本屋で見つけました。

愛

愛L'amour

ポール・エリュアール

私と佐喜世が同じ本を持っていて、うちに二冊ある本があります。その一つが、エリュアールの恋愛詩集『愛』です。ゴダールもエリュアールが好きで、作品の中で時々引用して朗読しています。

詩と真実 1942

詩と真実 1942Poésie et vérité 1942

ポール・エリュアール Les Éditions de la Main à Plume

僕は行く前からエリュアールが好きで、エリュアールをたくさん扱っている書店というのは、やはりシュルレアリスムの関係の書店です。リュクサンブール公園の真向かいにあった、ジョゼ・コルティという当時有名な出版書店。ブルトンやエリュアールの時からあった店です。去年行ったらもう無くなっていました。

日々の泡

日々の泡L'Écume des jours

ボリス・ヴィアン 1947

ボリス・ヴィアンが1947年に書いた小説です。私が読んだのは二十代半ばくらい。これは1972年の版ですが、何回も読んでカバーがボロボロになっています。読んだ当時、40年代に書かれたとは思えないくらいで、パリの今がこういう感じなんだろうという錯覚の中で読んでいました。

ドクトル・ジバゴ

ボリス・パステルナーク

パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』はノーベル賞を受けましたが、反祖国的と言われて辞退させられました。最初の翻訳はあまり良くないという話があって、後に改訳されています。うちで出したアルセーニイも同じ時代に、神秘的すぎるといった理由で出せなかったりした。

パンぼうやThe Bun: A Tale from Russia

マーシャ・ブラウン 1972

「おだんごパン」と同じ話が、「パンぼうや」という名前でも出ています。マーシャ・ブラウンが再話したものだと思います。同じ話なのですが、最後がオオカミに変わっている。いくつか版があるようです。孫もここに来ると林檎のコーナーへ行って、必ず同じ本を取ります。話は繰り返しでも飽きないんですね。

失われた時を求めてDu côté de chez Swann

マルセル・プルースト 1913

妻はプルーストの『失われた時を求めて』も二回読んでいます。二回読むというのは、好きじゃなければできません。——好きだったけどね。——けれど一回読んだらヘトヘトですよ。読み通した人だってそんなにたくさんいないんですから。

カフカ

カフカKafka

マルト・ロベール 晶文社 1960

映像学校の先生が薦めてくれたもう一冊が、マルト・ロベールという人のカフカ論でした。全く知らない人でしたが、面白いよと。

葦

葦

ミハイル・レールモントフ エクリ

レールモントフの小さな詩『葦』もうちで出しました。宇野亜喜良さんの絵で。不遇で亡くなったところに葦が生えて、それが葦笛となり、ある漁師が葦笛を作って吹いてみると、亡くなった女性の声で語り出す。呼び起こすということですね。

鏡の国のアリス

鏡の国のアリスThrough the Looking-Glass

ルイス・キャロル 筑摩書房 1871

『鏡の国のアリス』にはトゥイードルディーとトゥイードルダムという双子のような奇妙な二人が出てきます。その一人がアリスに向かって、傍らで昼寝をしている王様を見て「この王様が目を覚ましたら、あんたどこにいると思う? 君はこの王様の夢の中にしかいないんだ。王様が目を覚ましたら君は消えちゃうんだ、蝋燭みたいに」と言う。アリスはもちろん「消えないわ」と言うのですが。

カーニバルのおくりもの

カーニバルのおくりものHarlequin and the Gift of Many Colors

レミイ・シャーリップ 1973

貧しい男の子が、カーニバルにみんなが素敵な服を着て集まる中で、着ていく服がない。お母さんに作ってと頼むけれど布が足りなくて、友達がそれぞれ端切れを持ってきてくれて、カラフルな服ができあがる——という話です。悲しいけれど楽しいお話で、子どもがとても好きでした。幼稚園の運動靴バッグにこの刺繍をしましたし、本人も紙粘土でカーニバルの男の子、ハーレキンを作っていました。

第九軍団の鷲The Eagle of the Ninth

ローズマリー・サトクリフ 1954

ケルトのドルイドについては実はあまりよく分かっていないのですが、以前観た映画に『第九軍団の鷲』がありました。原作は少年少女向けの歴史小説を書いているローズマリー・サトクリフです。ローマ軍の五千人ほどの軍団が姿を消してしまうという史実があって、歴史書にも残っているけれど、どこへ行ったか見つからない。サトクリフはこれに物語を付けて、消えた軍団の軍団長だった息子が父の行方を探しに行く設定にしています。

三人の女

三人の女Drei Frauen

ローベルト・ムージル 河出書房新社 1924

『木に登る王』と全く同じ、やはり嫉妬に駆られる話があります。こちらは木ではなく城壁に登る。それも、敵を寄せ付けないために造られた、ものすごく切り立った城塞です。ドイツの作家ローベルト・ムージルの中編集『三人の女』に「ポルトガルの女」という話があって、それがこの話です。舞台は神聖ローマ帝国の時代で、あちこちで群雄割拠している。その領主の一人で、戦えば傷を負うけれども必ず敵を倒していく豪気な男が、あるとき城の近くの野原で寝ていて、この本ではハエに刺されたと書いてあるのですが、私は誤訳ではないかと思っていて、蚊か毒虫ではないか。とにかく刺されて何日も高熱が続き、戦に出るどころか甲冑も着られない状態になる。そこへ領主の妃であるポルトガルの女のもとに、ポルトガルから幼馴染が訪ねて来ている。二人ともとても若く、奥方が楽しそうなので彼は放っておくのです。