レベッカ・ソルニット『オーウェルの薔薇』

ルバイヤート

ウマル・ハイヤーム

薔薇はかなり古くから世界中の人に愛されていて、同じような表現が『ルバイヤート』——ペルシャの詩人ウマル・ハイヤームの文章を集めたもの——の中にあります。朝日に浮かぶ薔薇の蕾、薔薇の綻び、という表現です。もうすぐ咲くという状態が美しいというのは、古今東西みんな思うんだな、と。十一世紀頃のペルシャと言われています。

薔薇の名前

薔薇の名前Il nome della rosa

ウンベルト・エーコ 1980

文学というと、タイトルからすると最初に浮かぶのは『薔薇の名前』でしょう。でもこれは薔薇そのものの話ではない。何で薔薇なんだっけ、すごく面白かったのに内容を忘れてしまった——僕もそうなんです。この分厚い二巻本を二人とも一気に読んでいるのに。

バラの文化誌

バラの文化誌Rose

キャサリン・ホーウッド 原書房 2018

薔薇は古くから世界中で愛されてきました。ドイツのヒルデスハイムには「千年の薔薇」と言われる、カテドラルに咲いている薔薇があるそうです。千年の薔薇というとちょうど十一世紀くらい、その頃から現代まで咲いているはずなんですね。

星の王子さま

星の王子さまLe Petit Prince

サン=テグジュペリ 1943

一輪の薔薇というと最初に浮かぶのが『星の王子さま』です。最初に星にいる時、薔薇が一輪だけあって、ものすごくわがまま。「私は世界に一本よ」と言って、風邪をひくから風が吹いた時は囲ってとか、注文ばかり多い。わがままな女性の象徴のような薔薇で、それでも一生懸命お水をあげるんですね。

ボッティチェリ

ボッティチェリ

サンドロ・ボッティチェリ

ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』と『春(プリマヴェーラ)』。春ですから絵の中にも花がいっぱい溢れていて、着ている服の絹にも花が描いてある。当時フィレンツェにあった植物が百種類以上、全体で描かれているそうです。

パウル・クレー

パウル・クレー

パウル・クレー

クレーにも薔薇の絵があります。クレーらしい描き方で、タイトルは『バラの庭』、ドイツ語で Rosengarten。基調が少し明るい煉瓦色で、薔薇がたくさん咲いているというシンプルな絵です。全部が赤ですが、ちょっと花弁の感じも描かれていて、良い絵ですね。かなり大々的な展覧会のカタログで、特に作品が多かった時のものだと思います。

シャガール

シャガール

マルク・シャガール

シャガールはブーケがすごく多くて、いろんな花を花瓶に入れている絵が多いでしょう。タイトルに薔薇と付いたものが何点かあるのですが、うちにある画集の中には薔薇と付いたタイトルはない。これは薔薇だろうな、というのが『恋人たち』です。BIRTHDAY、お誕生日に恋人に花を贈っているから、多分薔薇ではないかと考えています。

19本の薔薇

19本の薔薇Nouăsprezece trandafiri

ミルチャ・エリアーデ 1980

エリアーデの『19本の薔薇』も意味深長です。エーコと同じで、エリアーデもルーマニアの宗教学者。執筆を主にしていたのはチャウシェスクが独裁をふるっていた時期で、最後にはフランスに亡命します。その政治的な背景がすごく含まれていて、『19本の薔薇』というのも象徴的です。

マルテの手記Die Aufzeichnungen des Malte Laurids Brigge

リルケ 1910

リルケには薔薇の詩集もありますが、有名なのは自分の墓碑に薔薇の言葉を入れてくれと頼んだという話です。墓碑だから短い。「薔薇よ おお、純粋な矛盾 夥しいまぶたの奥で 誰の眠りでもないという喜び」。純粋な矛盾、というのが不思議です。

不思議の国のアリス

不思議の国のアリスAlice's Adventures in Wonderland

ルイス・キャロル 筑摩書房 1865

ルイス・キャロルはオックスフォードの数学科で、当時トップ首席だったそうです。そのままクライストチャーチの数学講師になっている。学長のリデル家に三姉妹がいて、ボート遊びをしたときに自分で作った物語を聞かせた。それが『不思議の国のアリス』の元になった話で、主人公にアリスという名前をつけたら、次女のアリスがとても喜んだ。それで手書きの本を送ったと言われています。

オーウェルの薔薇

オーウェルの薔薇Orwell's Roses

レベッカ・ソルニット 2021

薔薇を書いた人の中で、すごく意外だったのがジョージ・オーウェルです。『1984』や『カタロニア讃歌』——スペイン内戦の話ですから、ものすごくラディカルな人でしょう。ラディカルな人が薔薇を育てないわけではないけれど、『オーウェルの薔薇』という本が最近出て、そのタイトルを見た時にすごく意外でした。オーウェルの薔薇? と。レベッカ・ソルニットという人で、これが面白かった。

リュシェンヌに薔薇を

リュシェンヌに薔薇をFour Roses for Lucienne

ローラン・トポール 1967

本としてはタイトルから『リュシェンヌに薔薇を』。書いたのはローラン・トポール、フランス語で書く作家で、出自はポーランドでしょうか。一時すごく評判になって、どういう話か分からなくて読みました。フランス語で書いてあるのに、このタイトルだけ英語になっているんです。

伊藤若冲

伊藤若冲

伊藤若冲 1981

若冲の薔薇が素晴らしい。『薔薇小禽図』、薔薇と——雀ではないと思いますが、なんとなくシジュウカラっぽい鳥。この絵に限らず、若冲の作品を大々的にたくさん観たのはこれが初めてでした。江戸期の絵は、花もどこか幻想的なものになりますね。

老薔薇園

老薔薇園

金子光晴 2015

金子光晴が『老薔薇園』というのを書いています。金子光晴はなかなかしたたかな人ですから、老薔薇園というくらいで、何千本もあるような薔薇園を歩くのですが、萎れたのが多くて、その中を歩く。美しく咲き誇った薔薇よりもそちらに目が行っている、というような詩です。

巨岩と花びら

巨岩と花びら

舟越保武 1982

ベアトリーチェは恋の象徴のように絵になっていて、一番有名なのがロセッティです。ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティといって、ダンテという名前が付いているんですね。ダンテの肖像画は残っていますが、ベアトリーチェは残っていないので、みんな想像で描くわけです。

薔薇 悲歌

薔薇 悲歌

渋沢孝輔 1983

日本では渋沢孝輔の『薔薇 悲歌(エレジー)』。すごく豪華な本で、浮き彫りが入っていて、薔薇のデッサンがあります。この絵も、それにこの字も瀧口修造なんです。瀧口修造はもちろん自分で詩も作品も絵も描く人ですが。

チェーホフの庭

チェーホフの庭

小林清美 群像社 2004

チェーホフは「私は文学者にならなかったら、園芸家になったような気がします」といつも言っていました。「私の夢は薔薇を植えて、誰にも会わないで、小さな作品を書くことです」と。

薔薇ぐるい

薔薇ぐるい

清岡卓行 1982

四月の末に、うちの新しい本の展示をするので白金へ行った時、途中の道に一輪だけ薔薇が咲きかけていました。それを見て、やっぱり薔薇は綺麗だなと。普通の家の垣根で、それも一輪だけ、ちょっとピンクがかった白い薔薇でした。

その他の薔薇の本

  • 清岡卓行薔薇の詩のアンソロジー